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迫りくる危機 PAGE6

last update Last Updated: 2025-08-08 10:01:23

 ――絢乃会長からのお願いで、真弥さんは調査を急いでくれることになった。でも、宮坂くん本人が接触してくるようになったので、わたしにとってあの書き込みはもうそれほど脅威に感じなくなってしまったのだけれど。

 そしてお昼休み。わたしはいつものように、入江くんと佳奈ちゃんの待つ社員食堂へ行こうとしていたのだけれど……。

「――矢神さん、ちょうどよかった。今からお昼でしょう?」

「あ、会長! はい。これから社食へ行こうと思って。……あの、主任はご一緒じゃないんですか?」

 エレベーターホールへ向かう廊下で、会長に呼び止められた。でも桐島主任はご一緒ではなく、彼女お一人だった。

「ええ。彼は今日、小川さんと一緒に外で食べてくるって。というわけで、たまには女同士、外でランチなんてどう? わたしがごちそうするから」

「はい、それじゃお言葉に甘えて。……でも、その前にちょっと、社食に顔を出してもいいですか? 友だちが待っているので、一声かけてから行きたくて」

「いいよ。急がないから行ってらっしゃい。わたしは食堂の入り口のところで待たせてもらうね」

「分かりました。話は手短に済ませますので」

 ――エレベーターで社員食堂のある十二階へ下りていくと、ちょうど入江くんと出くわした。彼はわたしが会長と一緒にいることに目を丸くしている。

「――あれ? 矢神、今日は会長と一緒なのか? 珍しいじゃん」

「あのね、入江くん。今日はこの後、会長にランチをごちそうしてもらうことになったんだけど、その前にちょっと入江くんに話があって」

「えっ? オレに話って……。会長、いいんすか?」

「ええ、どうぞ。わたしのことはお構いなく」

 会長はそうおっしゃって、わたしたちに背中を向けられた。「わたしは聞いてませんよ」という態勢を取られたようだ。

「……で、何だよ話って?」

「実はね……、昨日、宮坂くんが佳奈ちゃんに接触してきて、わたしのことを何か色々と悪く言ってたみたいなの。わたしのところにも現れて、何もされてないけど怖かった」

「マジかよ。お前の前に現れるのはまだ分かるけど、なんで中井にまで……。アイツ、ワケ分かんねえ」

「多分、わたしを精神的に孤立させようとしてるんじゃないかと思う。佳奈ちゃんにわたしのあることないこと吹き込んで、わたしをキライになるように仕向けたいんだよ」

「ひでえな。……オレに、何かで
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  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   迫りくる危機 PAGE5

    「――ということがあったんです」 就業開始前にわたしは会長室を訪ね、会長と桐島主任に、佳奈ちゃんとわたしの身に起こったことを報告した。話し終えたわたしはもう喉がカラカラに渇いていて、主任が淹れて下さったカフェオレをカップ半分くらい一気に飲んだ。今日も熱すぎない適温で飲みやすい。「……あ、主任。カフェオレ、ありがとうございます」「いいよ、ここでは僕もホストだからね」「矢神さん、彼の言う〝ホスト〟って、ここではもてなす側っていう意味ね。水商売の方のホストじゃないから」「分かってますよ、会長」 会長が大真面目に補足説明を入れたので、わたしは思わず吹き出してしまった。会長って案外天然なのかもしれない。「……それはともかく。麻衣さんがじーっと見られていたことは真弥さんから聞いたけど、宮坂さんが貴女だけじゃなく、お友だちにまで接触してきたっていうのは気になるよね。しかも貴女のことを悪く言うなんて、彼は一体何がしたいんだろう?」「多分、わたしを精神的に孤立させたいんじゃないかと思います。それで、わたしの心が自分一人だけに向くよう仕向けたいんじゃないですかね。宮坂くんがそこまでするような人だとは思いませんでした」 今までは仮にも同級生だったからというのもあって、彼のことを少し甘く見ていたのかもしれないし、わたし自身にも信じたくない気持ちがあった。でも、さすがにここまでされると彼という存在が本当に恐ろしい。「この件は、わたしから内田さんにも報告しとくわね。ここまでエスカレートすると、警察に介入してもらうことも視野に入れないといけないかもしれない。お二人には矢神さんの警護体制を一度見直してもらう必要があるかも」「そうですね。――矢神さん、真弥さんから

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